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デザイナーやクリエイターなら、一度は興味を持ち、入居を夢見るといわれる台東デザイナーズビレッジは、旧小島小学校のレトロな校舎はそのままに、起業を目指す若きクリエイターが集う創業施設です。設立から15年、100名以上の卒業生を育て、ファッション業界を中心に活躍するさまざまなクリエイターを輩出した実績を持つ村長・鈴木氏に、成功の秘訣を伺いました(施設名に「ビレッジ」とつくため、鈴木氏は施設内外から村長の愛称で呼ばれています)。
Q1. 台東デザイナーズビレッジとは、どんなところでしょうか
ファッションやデザイン関連の分野で自立を目指すクリエイターを支援する施設です。ファッション業界の将来を担う若手を増やすことを目的に、台東区の創業支援施設として2004年に設立されました。区内小学校と統合のため閉校となった旧小島小学校を改装し、校舎内の施設をアトリエや事務所としてクリエイターに貸し出しています。
環境を提供するだけでなく、クリエイターの活動がビジネスとして成長するまでをトータルでサポートすることも、この台東デザイナーズビレッジの特長です。「ハード・ソフト・ネットワーク・チャンス」の4つを提供しています。
ハード:
クリエイターが使用する部屋は、旧小島小学校の教室。アトリエや事務所として広いスペースが確保でき、作業効率がグッと上がります。また商談をする、スタッフを呼ぶなど活動の幅も広がります。
ソフト:
入居者には、半年に一度事業計画書を作成・提出する義務があります。この計画書から、活動内容の不足を補ったり、過去の事業計画から振り返りを行ったり、定期的に一人ひとりにあったアドバイスを行うことで、クリエイター自身に気づきが生まれ、成長に繋がります。事業のコンセプトや商品の企画、営業活動、生産工場とのつながりや税金のことまで、さまざまな相談を受けています。時にはプライベートな相談をうけることも。
ネットワーク:
一人コツコツと作品を作り続けているため自宅にこもりっきり、たくさん作って満足する……クリエイターとして歩きはじめた人なら、一度は経験があるのではないでしょうか。台東デザイナーズビレッジには、同じ成功を目指すクリエイターが集まります。3年の入居期間を設けているので、同期と呼べる仲間、そして先輩や後輩も同じ建物にいます。ふとしたことを相談したり、教えあったり。似たような状況にある仲間が身近にいると、安心と同時に刺激にもなります。また企業や産地を見学するツアーを開催し、物づくりをする職人や工場とのつながりも広げることができます。
チャンス:
台東デザイナーズビレッジは、マスコミやファッション業界から注目され、誌面掲載やポップアップショップなど露出が増えることで、入居するクリエイターのビジネスチャンスが増えます。
Q2.この施設を起ち上げた理由や、施設に対する想いを教えてください
以前は障害者や高齢者ファッションを普及させるNPO団体を設立し、中小企業や個人を支援してきました。その団体が軌道に乗った頃、「創業支援」という仕事に出合ったのです。これまでは障害者や高齢者など立場の弱い人を支援してきましたが、創業支援では規模の小さな人の助けになりたいと、台東区立の創業支援施設「台東デザイナーズビレッジ」の村長を受託しました。
設立当時は、単に安く利用できるアトリエとして入居する人が多く、事業の成長を求めない人もいました。「このままではいけない」と入居者が入れ替わる年に一念発起。成長意欲のある人に活用してほしいと、入居するための定義を改めました。そこから、このビレッジはどんどん変わりましたね。夢をかなえたくて入居してきたクリエイターが自立していく過程を見られることは本当に楽しいです。
Q3.入居者たちとの関わりのなかで、忘れられないエピソードはありますか?
クリエイター一人ひとりにさまざまな思い出があり、内容もそれぞれ違います。
1000円の髪飾りを作っていたクリエイターが、今では都心にビルを持ってどんどん売り上げを伸ばしている。自宅で食器を焼いて出荷していたクリエイターが、東京と大阪で4店舗経営。手づくりでスタートしたものが、形を変え、みるみる大規模なビジネスに育つ場面をいくつも見てきました。
そのなかでも忘れられないのが、ファッションの学校を作ったクリエイターです。彼の夢は「ファッション業界で活躍すること」でした。日本を飛び出し、イギリスの芸術名門大学でファッションを学び、帰国して服のブランドを起ち上げた。しかし彼の持ち味、デザインは、量産品の服を作るのには不向きだったのです。これは、普通に考えたらビジネスとしてやっていく上で、致命傷といえますよね。
「売れる服」は作れない。
でも、夢はかなえたい、そして熱意も、行動力もある。彼の夢を、どのように収益へとつなげるか。どうやったら……。
何度もなんども彼と話し、いろんな角度から相談を重ねました。そして、彼は気づいたのです。
「自分は服を作ることではなく、作るための考え方、つまり人の内に秘めた想いを表現させること」に長けている。
そしてそれを、ビジネスの柱にすることにしました。
作る技術は学校で学べますが、何を作ったらいいのかは誰も教えてくれない。そこに彼のスキルがピッタリとマッチすることに、気づいたんですね。その後彼は、人の内面を引き出し、デザインに落とし込む方法を教える週末スクールを設立しました。そして今ではファッションコンテスト「ITS」のファイナリストやグランプリに選出されるデザイナーを輩出しています。
Q4. たくさんのデザイナー、クリエイターを見てきて思うこと、ずばり、成功の秘訣はなんだと思いますか?
とにかく、行動力があること。これがないと、はじまりません。
そのうえで、成功のポイントはみんな違います。事業計画を立ててきちんとこなす人、人の倍以上働いてのびる人、クリエイティブな才能が高く評価されてのびる人。ほかにもコミュニケーション能力を武器にする人や応援されてのびる人など、一人ひとりの自分を活かす方法を見つけたとき、結果に現れます。
また、ビジネスを成長させるには、ブランドのコンセプトをはっきりさせて、情報発信を心がけることで、ファンを増やすための活動を取り入れてください。なかには苦手な場面があるかと思いますが、チャレンジすることが大事なんです。苦手と向き合い、たくさん乗り越えた分だけ、成果へとつながっていく。また、つなげられる方法を、ここでなら見つけられるでしょう。
Q5. デザイナー、クリエイターとして起業を目指す人、台東デザイナーズビレッジに入居したいと考えている人へのメッセージをお願いします
クリエイターであれば、現在の業績は問いません。本気で起業を考えている人を歓迎します。これまで多くの先輩たちが起業家として成長し、ビジネスを確立しました。今でもファッション業界を中心に活躍しています。心が動いたときこそがチャンスです。台東デザイナーズビレッジを活用して、あなたのビジネスを成長させませんか。
今回お話をうかがったところ
台東デザイナーズビレッジ
http://designers-village.com/
創業支援としてファッション業界だけでなく、多方面から注目されている台東デザイナーズビレッジ。成功するまでの過程を、支援という形で寄り添い、導いてくれるシステムが15年目を迎え、今ではファッション業界にさまざまなクリエイターを輩出しています。その裏には村長の「成功してほしい」という確固たる想いが存在していました。「クリエイターが成長する過程を見られるのが一番の喜び」と笑顔で語る村長。入居するクリエイターの原石がどんな宝石へと変わるのか、今後の躍進が楽しみです。
カテゴリー: ワークスペース
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