特集
アクセサリーや布小物などを展示した、わずか30㎝四方ほどの箱型のスペースがいくつも棚のように連なっている「レンタルボックス」。ハンドメイド作家さんが箱をレンタルし、自身の作品を展示・販売できるスペースです。かねてからある販売スタイルですが、ネット販売が流行する中、リアルの店舗で集客し続けているお店にはどのような工夫があるのでしょうか。今回は、東京・下北沢で17年目を迎えるレンタルボックス「素今歩」(すこんぶ)さんを取材。店長の川上さんに、多くの作家さんが出展し、お客様に支持され続けている理由を探りました。
<素今歩プロフィール>
・小田急線、京王井の頭線「下北沢」駅 徒歩3分圏内に、北口店、南口店の2店舗を構える
・オープンから17年目を迎える(2019年8月時点)
・出展している作家さんは700名ほどに上り、2店舗合わせた箱の数は750ほどになる
――まずは「レンタルボックス」がどのようなものなのか教えてください。
川上さん: ハンドメイド作家さんに箱型のスペースを貸し出し、そこで自分のお店のように作品を展示・販売できるものです。当店では箱の大きさは30㎝四方ほどのものから幅が60㎝ほどあるものなどいくつかあり、出展作家さんに空いている箱で好きな場所を選んでいただけます。現在、出展いただいている作家さんは2店舗合わせて700名ほどいらっしゃいます。
――ハンドメイド作品のネット上での売買が流行している中で、店舗で作品を販売する作家さんがいるのはなぜなのでしょうか。
川上さん: このお店は、私の父が17年前(2002年)にスタートしました。「素今歩」(すこんぶ)という店名は、「素人が今から歩き出す」という意味が込められています。ハンドメイド作品のネット販売はまだ主流ではなかった当時から、このお店を作家さんたちの出発点にして羽ばたいていってほしいという思いは、今でも変わっていません。
出展者は、オープン当初から利用してくださっている作家さんもいれば、新規で出展いただく方も多数いらっしゃいます。出展いただく作家さんの数は徐々に増えてきて、北口店の売り場スペースは当初の3倍になり、2017年3月には南口店オープンにもつながりました。年齢層も学生さんから80代の方までと幅広く、老若男女問いません。これからも、作家さんたちのスタートアップを支えるお店であり続けます。
――出展者が増えてお店の規模が徐々に拡大しているということは、利用されるお客様が増えているから、と考えられます。集客力が上がり続けている理由はどのようなことだと思いますか。
川上さん: 出展する作家さん目線の運営を心がけています。そのことが、お客様が来店して楽しいお店作りにもつながっているのではないでしょうか。
当店のポリシーは、「作家さんに思ったことは遠慮なく意見を言ってもらえるお店であること」。作家さんはお客様ではなく、一緒に働くスタッフだと思って接しています。この先もずっと運営を続けていく上で必要なヒントをもらえるからです。
最近では、レンタルボックス店だけでなく、アパレル店などでも作家さんの作品を店頭に置くケースが増えてきました。そうした中で、作家さんには当店を選んで作品を委託していただいているわけですから、より多くのお客様に見てもらうための責任があります。長期間売れない作品があれば、何が原因なのかを作家さんと一緒に考えて、箱の位置を変えたりなど、試行錯誤しています。
運営側と作家さん両者で店づくりをすることで、お客様にも支持いただけているのかもしれません。北口店、南口店ともに、お店の外に出るのも一苦労なほど混み合う時期もあります。どのジャンルの商品も、均等に売れています。
――最近は、箱タイプではなく、店頭の棚や平台に並べて置くスタイルの展示方法もよく見かけますが、素今歩さんがボックスタイプである理由はありますか。
川上さん: 作家さんの世界観を演出するためには、ほかの作家さんとの境目が明確にある方がいい。箱の形状であることで、各作家さんの特色や特徴が視覚的に伝わりやすいと考えています。作品がより素敵に見えるにはどうしたらいいのかを考え、箱の内部の壁面の色柄や素材感を変更できるように、専用のパネルも無料で貸し出しています。自分の部屋も、壁紙を選んだり、棚を設置したりしますよね。箱の中もそれと同じで、作家さんが自分の空間として自由にアレンジできます。
ネットでは、お客様が求めているものや自分の好みに合ったものが表示される便利さはありますが、今までにない自分の好みに気づくことや、知らない作家さんの作品に触れやすい環境にあるのが、レンタルボックスの良さだと思います。
――「箱」という形態だからこそ、作家さんごとの特色も明確に打ち出せるというわけですね。一度に複数の作家さんの作品を直接見られるのは、レンタルボックスの醍醐味ですね。
川上さん: ぜひ多くのお客様にご来場いただき、作家さんたちが一つ一つを込めて作った作品をご覧いただきたいです。また、作家さんたちは、自分のボックスのメンテナンスや納品などで来店されることも多く、店内では作家さん同士の交流も生まれています。出展お待ちしております。
――見えない部分にさまざまな工夫をこらしているからこそ、長期にわたって作家さんからもお客様からも支持されているんですね。川上さん、ありがとうございました!
<素今歩 出展作家さん紹介>
素今歩に出展している作家さん2名をご紹介いたします。
① Halona(ハロナ)さん
・素今歩での出展歴:5年
・作品ジャンル:主にシルバーや真鍮を使用した華奢なオリジナルアクセサリー
・価格帯1500円〜2500円
ハンドメイド作家が本業で、素今歩さんでは3箱委託しています。
ハンドメイドイベントにもよく出展しており、そのイベントのブースとリンクさせるために、ボックスの雰囲気とイベントブースの雰囲気を統一しています。イベントにご来場いただいたお客様がこのお店に来たときに、「あの作家さんだ」と覚えていただきたいからです。
指輪やアクセサリーを作っているのですが、「女性にかわいいと感じてもらえるためには、どうしたらいいか」ということは、店長の川上さんにも相談させていただきました。特に人気の作品を多めに展示するなど、いろいろな工夫をアドバイスいただいています。
週に1~2回は、納品もかねてメンテナンスのために来店しています。シルバーや真鍮は時間がたつと酸化してくすんでしまいやすいので、来店時には、展示している作品すべてを、丁寧に磨きます。お客様には、作品を常にベストな状態でご覧いただきたいからです。
プロフィールを記載したカードもボックス内に展示してあるのですが、その写真を撮影するためにロサンゼルスまで行きました。そのほか、モデルさんに作品を着用いただいて撮影する写真も、ロサンゼルスで撮影しています。
② さめざめさん
・素昆布での出展歴:3年
・作品ジャンル:ワイヤーなどを使ったアクセサリー
・価格帯:1300円〜1900円
アクセサリー作家のほか、ミュージシャンや文筆家としても活動し、3箱委託しています。シルバーやゴールド系の作品が多いので、白を基調としたシンプルなディスプレイで作品が目立つように箱の内装は凝りすぎないようにしています。
納品などのため、週に1~3回は来店しています。素今歩さんは、ほかのレンタルボックス店と比べて、お客様の数も多いですし、スタッフの方との距離も近いです。陳列方法などについても、スタッフさんには気軽に相談できます。「レンタルボックスといえば素今歩」と断言できるほど、作家に対するサポートが行き届いているので、これから出展を検討している方にはおすすめです。
<素今歩さん 出展方法>(http://sukonbu.petit.cc/pineapple1/)
① 出展受付は店頭のみ。まずはお店を訪問。
② 「空室」「出展者募集」と記載のある箱の中から、好きな箱を選ぶ。サイズや位置によって箱の価格が異なる。箱をキープできるのは1週間。
③ 出展までに用意するもの
―タグをつけた商品
―ディスプレイ(パネルやピンなど)
④ 好みの箱が決まったらスタッフに声をかけ、会員登録の手続きをする。
⑤ お店のメールアドレスにあてに会員番号と名前を送信し、メール登録手続き完了。
⑥ 登録から1週間以内に来店する。
―タグをつけた商品
―ディスプレイ
―会員カード
◇ ◇ ◇
どの作品も目移りしてしまうほど、見ごたえのあるレンタルボックス素今歩。「インスタを見て」「ずっと来たいと思っていた」「好きな作家さんがいるので」など、来店理由はさまざまですが、お客様を17年間にわたって引き付け続けている背景には、運営者側の「ここまでやるか!」と感じるほどの作家さん目線の仕組みがありました。作家デビューを目指している方、ネット販売で伸び悩んでいる方などは、ぜひ出展を検討してみては。
お話をうかがった方
すこんぶ本舗
店長 川上さん
住所:北口店 東京都世田谷区北沢2-25-8 東洋百貨店内
南口店 東京都世田谷区北沢2-13-7 片野ビル1階
TEL/FAX:北口店 03-3460-1185
南口店 03-3419-1185
営業時間:12:00〜20:00
定休日:北口店 年末年始のみお休み
南口店 水曜日 年末年始のみお休み
URL : http://sukonbu.petit.cc/
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