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親子で職人、夫婦や姉妹で作家。ものづくりの世界では、ご夫婦や親子、姉妹のコラボで活躍されている方が多くいらっしゃいます。ですが、これが「兄と弟」の兄弟となると、その数は減るどころか、希少といえるものがあるのです。そこで今回は、兄弟職人や作家とは、いったいどんな方たちで、「兄弟」でものづくりをするメリットとは何なのかという点について、東京・両国で革職人として工房を営む『大関鞄工房』の大関ご兄弟、そして、長崎五島列島・奈留島で木工作家をしている『三兄弟工房』の皆さんにお話を伺いました。
東京都・両国駅からほど近い場所に店舗と工房を構える『大関鞄工房』。バッグ・革小物の販売・修理を行う『大関鞄工房』は、海外ブランドのOEMを行うほか、『Squeeze(スクィーズ)』という日本製にこだわるオリジナルブランドを立ち上げています。
現在、工房の代表を務める、兄の大関 敏幸さん、専務取締役の弟、大関 勉さんに、兄弟で職人を目指したきっかけや、兄弟という関係性がものづくりにプラスとなっている部分について、お話を伺いました。
―― お二人のご経歴を、現在のご活動とあわせてお聞かせください。
兄・大関敏幸さん: 『大関鞄工房』は先代の父がはじめた会社です。子どもの頃から、職人さんが住み込みで働いている様子を間近で見ていたこともあり、この仕事の大変さを実感していました。そのため、私が就いたのは、ITの先駆けの仕事をしている会社や銀行でした。多忙で、時間に追われる年月を過ごすうちに、今の仕事をどれだけやっても、形には残らないと感じるようになりました。そして、自分がやりたい仕事は「世の中に残るものをつくる」ことだと考えるようになったのです。そして大関鞄工房に入り、私の職人としてのキャリアがスタートしました。
ただ、ほかで修行をせずに大関鞄工房に入ったため、はじめのうちは職人さんたちにまるで相手にされませんでした。できることは、なんでもやろう、と細かい作業の手伝いをしたり、完成した鞄を自分で分解して研究して、職人さんにわからないことを聞いたりするうちに少しずつ革製作の技術を習得し、職人さんとも対等に話せるようになっていきました。
―― では、弟さんもお聞かせいただけますか。
弟・大関勉さん: 兄と同じで、父がバッグを作る様子をそばで見ていました。私は元々ものづくりが好きだったので、父が見ていない時にこっそりミシンをかけたりしていましたね。そして、仕事の手伝いをするうちに、次第に興味がわいていきました。
ですが、社会人となってすぐに大関鞄工房に入ったわけではありません。学校を卒業してものづくりの仕事がしたいと思い、最初はバッグの問屋に入社しました。
―― バッグの問屋から、大関鞄工房に入られたきっかけは、どんなものだったのでしょうか。
勉さん: 兄が先に大関鞄工房に入っていましたが、工房の仕事が忙しくなったために誘われました。問屋ではオリジナル企画商品を小売店に卸していましたが、ものをつくることが好きだったので、手伝うために入りました。
―― ご兄弟で、仕事の分担はどうされているのですか?
敏幸さん: 企画会議では、まず二人でバッグの素材は何を使うのか、誰に使ってもらうことを想定するのか、そもそも売れるのかを話し合います。
商品化が決定したら、基本的に専務(弟さん)がファーストサンプルを製作します。
―― オリジナル作品のうち、代表的なものを教えてください。
ラメが入ったエナメル革ローズの財布は、工房でオーダーしたオリジナル革を使っています。薄マチなのにカードが24枚収納できる長財布が一番人気です。
―― 兄弟経営ならではのエピソード、良かったところがあれば教えてください。
敏幸さん: 意見を言い、ぶつかりあえるところでしょうか。兄弟なので気心が知れており、激しく意見を主張しあっても、変に残らないところだと思います。
―― やはりぶつかりあいますか?
敏幸さん: デザイン、価格、色など、意見はやっぱりぶつかります。でも「こうしたい」という主張があるぐらいでないと、ものを生み出して世の中に出していくことは難しいと思います。
―― ご兄弟で共同経営されて何年になるのでしょうか。
勉さん: 25年になりますね。
―― 25年!工房を長く続けてこられた理由はどこにあるのでしょうか。
敏幸さん: 先代から、職人としての誇りを持っていたからでしょうか。大関鞄工房では、オリジナルブランド『Squeeze(スクィーズ)』のほかに、海外ブランド等のOEMも行っています。その中で、ただ言われるとおりに作るのではなく、デザイナーの意思を尊重しながらも、職人として売れる商品の作り方を提案してきました。壊れないものづくり、お客さんに喜ばれるものづくりにこだわってきたからかなと思います。
―― 作品作りのこだわりについて、作り手からユーザーへ伝えたいことがあれば教えてください。
敏幸さん: こちらはSqueezeブランドの牛革トートバッグですが、長財布が横ではなく縦に入れられて取りやすい、また、外側にファスナーポケットがついている、ファスナーを閉じても開けても使いやすいなど、使い手のためになる「こだわり」がつまっています。引手の作り方はとても重要で、壊れにくく引きやすいです。また革のバッグは、構造によっては、角が擦り切れる前にお持ちいただければ、修理できるケースもあります。
細かいこだわりや技術がつまっているのですが、店舗ではお客さんに直接お伝えすることができるのがいいですね。
―― ご夫婦・姉妹の作家さんや職人さんは多いのですが、兄弟経営ならではの「ここが違う」という点があれば教えてください。
敏幸さん: 安心して意見が言い合える、ぶつかっても後腐れがないところが良いところだと思います。
――将来のビジョンを教えてください。
勉さん: ものづくりが好きな人が職人になって、ビジネスとしてきちんと食べていけるようにしたいと考えています。
敏幸さん: これからは大量消費ではなく、一つものを買って修理しながら永く使う文化になっていくと思います。ものを作る楽しさと、大切に使うことについて考えてもらいたいと思い、子どもの職業体験プログラム『JTB旅いく×アウトオブキッザニア in すみだ』で伝えることもしています。次の世代へ伝えていきたいですね。
―― ありがとうございました。
革製品の加工・制作技術を磨くことはもちろんのこと、子ども達の世代にものづくりの楽しさを伝えること、ものづくりで食べていける職人を育てたいことなど、皮革製品業界全体のことを思っていらっしゃるのが印象的でした。
大関鞄工房
東京都墨田区緑2-13-5
http://www.squeeze.ne.jp/
次のページでは、長崎・五島列島の兄弟木工職人・三兄弟工房をご紹介します。
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