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古い街並みが残る埼玉県・川越。その風情から「小江戸」として親しまれ、毎年多くの観光客でにぎわいます。
その川越で、なんと江戸時代の寛政5年(1793年)から8代にわたって手芸関連品の販売を行ってきたのが山久(やまきゅう)さんです。これまでどのような取り組みをされてきたのでしょうか。また、長きにわたってお客様に支持される理由について、8代目の髙山和明社長と、髙山有美子専務にうかがいました。
「あなたの街の専門店」前回に続き、今回は「山久」さんのご紹介です。
――寛政5年から続く手芸店とのことですが、創業当時はどのような事業をしていたのか教えてください。
和明さん: 最初は糸の販売でスタートしました。山田屋久兵衛という、もともとは呉服屋に丁稚奉公していた人がやがて番頭(店のことを取り仕切る人)にまで上りつめ、独立したのが始まりです。独立する際に、同じ呉服屋を開いてしまうと、お世話になった呉服店と競合してしまう。そうならないために、自分は糸の販売や卸売りをする糸屋として暖簾分けしたそうです。他店の顧客を奪ってしまうことのないように、という「共存共栄」の気持ちは、今の私たちの経営にも生きています。
――手芸店としてお店を続けていく上で、代々受け継がれてきたポリシーはどのようなことですか。
和明さん: 糸屋で店を興したことから、「細く長く」という思いは脈々と受け継がれてきたと思います。それから、社員や仕入れ先を大切にすることです。ネット販売も行っていますが、価格競争になると自社だけでなく同業他社も不幸になるので安売りはしません。
――現在のお店の商品構成と、糸屋さんから現在のようになった経緯について教えてください。
有美子さん: 店内は毛糸4割、ソーイング4割、その他手芸関連商品2割を展示しています。
もともとは糸屋として糸や針やはさみなどのソーイング関連商品を販売していましたが、その後、編み物需要の増加に応じて毛糸の品ぞろえが増えました。特にここ30~40年でハマナカさんやオリムパス製絲さんが手芸関連の商材を始められたため、当店も品揃えの幅を広げ、手芸を取り扱い始めました。
糸屋から手芸専門店に変わってはいますが、お店としては品揃えを時代に応じて変えているだけですので、特に「何代目で業種が変化した」というわけではありません。
――ネットでは価格を比較しやすいので、他社より高いと買ってもらえないのでは。
有美子さん: ネット販売は現在、主に私が担当しています。安売りしない分、商品説明や接客をしっかりするよう徹底して、他社より多少高くてもご購入いただけるよう、当社の付加価値として提供しています。付き合いの長いメーカーさんも多いので、お客様から問い合わせがあれば、分からないことはその都度メーカーに聞いて、必ず回答するようにしています。ウェブ販売でも店頭での接客同様に、商品の特徴などを丁寧に説明するよう心掛けて掲載しています。
――9代目は有美子さんとのことですが、幼いころからこの会社を継ぐつもりだったのですか。
有美子さん: 大学に入ったばかりの頃は、店を継ぐことはまったく考えていませんでした。でも、私にとって手芸は小さいころから身近なものです。小学生の時には、友達と集って編み物をした楽しい思い出がたくさんあります。就職活動が始まり自分の将来を見つめた時に、そんな楽しみを与えてくれた手芸についても考えました。歴史がある店なので、自分の代でなくなってしまうのは悲しい。「店を継ぎたい」と思うようになりましたね。
――有美子さんが経営にかかわるようになって、どのような変化がありましたか。
和明さん: 地域に密着している店なので、この街には当社を古くからご利用いただいているお客様がたくさんいらっしゃいます。以前は、そうした常連のお客様向けの店づくりを意識した品ぞろえでしたが、かねてから若い年代の方にもご来店いただきたいと思っていました。最近は、これから手芸を始める方や若年層の方向けの商品も展示することで、お客様の層が広がっていると思います。また、イベントも積極的に行っているので、新規のお客様が入りやすくなったのではないでしょうか。
――イベントは頻繁に行っているのですか。
和明さん: 2時間ほどであみぐるみが作れる教室は毎月開催しています。そのほかにも、街おこしの一環として川越の商店街の各お店が開催する「まちゼミ」も行っています。当店では毛糸を使って動物の顔などを作るポンポンマスコットなど、1時間程度で数百円の参加費で作れるものを実施しています。
――どのような方が参加されていますか。
和明さん: あみぐるみは、小学生からご年配の方まで幅広いです。SNSでも教室の情報は発信しており、その告知を見て、岐阜の飛騨高山からわざわざご参加いただいた方もいらっしゃいます。ポンポンマスコット作りはお子さん連れの働くお母さんによく参加していただいています。
有美子さん: おばあさんがお孫さんを連れてくるのをよく見かけます。編み物をするのはご年配の方が多いですが、世代を超えたコミュニケーションのいいきっかけになっていると感じます。
川越の手芸屋「山久」のインタビューは、次のページに続きます。
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